ディスコミュージックを代表するバンドと言えばアース・ウィンド&ファイアー(Earth, Wind & Fire、以下「EWF」)です。
しかし、EWFのファンがそんなことを聞いたら怒ってしまいかねません。そう、彼らは元々ファンクバンドなのですから。
EWFは、70年代から80年代前半にかけて活躍する中でR&Bやファンクを中心に、ジャズやラテンの要素も取り入れながらその音楽性を目まぐるしく変えつつ当時のR&Bを牽引していった、偉大なる存在です。
EWFの名前は知らずとも、きっとあなたは日常のあらゆる場面で彼らの楽曲を耳にしているはずです。
今回は、ミュージシャン/ボイストレーナーの私が、そんなEWFの数多くの名曲や人気曲から、10曲を厳選して紹介していくと共に、彼らの名盤についても触れていきます。ぜひお楽しみくださいね!
アース・ウィンド&ファイアーについて
70年代〜80年代R&Bを代表するバンド
アース・ウィンド&ファイアー(EWF)は、アフリカ系アメリカ人によるファンクミュージック・バンドです。R&B、ファンク、ソウル、ジャズなどあらゆるジャンルの音楽性が混ざった彼らの楽曲は、時にファンクソングとして、時にディスコソングとして、時にAORソングとしてヒットを連発しました。
本国アメリカ以外でも、日本やヨーロッパでも非常に人気が高く、これまでに全世界で9000万枚以上のレコード・CDを売り上げ、
活動休止と再開を繰り返しながら、これまでにグラミー賞を6回も受賞し、2000年にはロックの殿堂入りを果たしている一流のバンドです。
EWFの音楽的特徴とは?
まず挙げられるのが、ファンキーなモーリス・ホワイトと、高音が冴え渡るフィリップ・ベイリーのツインヴォーカルです。二人の掛け合いに加え、重層的なコーラスが援護射撃し、他のバンドを圧倒するコーラスワークもまた彼らの特徴です。
また、EWFのサウンドに欠かせないのがキレッキレのホーン・セクションです。ファンクのお供として欠かせないホーン・セクションは彼らの楽曲の要として、ギターやキーボード以上に前に出てきます。今どきのR&Bではあまり耳にしないかもしれないホーン・セクションは一番の見どころかもしれません。
Keep Your Head to the Sky (キープ・ユア・ヘッド・トゥー・ザ・スカイ)
リリース年:1973年
収録アルバム:ヘッド・トゥー・ザ・スカイ
アース・ウィンド&ファイアーにとってはじめてのヒット作「ヘッド・トゥー・ザ・スカイ」に収録されているこの曲は、フィリップ・ベイリーの伸びやかなハイトーンボイスが冴え渡るジャズ・ファンクの傑作です。
時代的に流行っていたファンクを取り入れながら、ラテンやアフロの薫りもそこはかとなく漂う独特の雰囲気が独特の心地良さは、「絶頂期のEWFのサウンド」であるディスコ・ミュージックとは一線を画していてカッコ良いです。
あらゆる音楽の要素が混ざり合い、洗練されたコード進行やアレンジ、甘くとろけるようなメロディライン・・・後に大ヒットする名曲以上にファンに愛されている人気曲です。
Sing a Song(シング・ア・ソング)
リリース年:1975年
収録アルバム:灼熱の狂宴
後世からディスコ・ミュージックという音楽ジャンルを振り返ると、必然的に登場するのが「シング・ア・ソング」です。
1975年にリリースされたアルバム「灼熱の狂宴」に収録されているこの曲は、サビの重層的なコーラスと軽快なノリが印象的なアップテンポなナンバーです。非常に凝った、複雑なアレンジや演奏が特徴である彼らの楽曲の中ではかなりシンプルに聴こえますよね。
70年代中盤は、おそらくR&Bの歴史の中で最も多様性に溢れていた時期です。EWFもあらゆる方向性の楽曲をリリースするわけですが、この曲はシンプルにして洗練された、ポップスのお手本のような名曲です。のちにシングルカットされると、ビルボード全米最高5位、R&Bチャートでは全米1位と大ヒットを記録しています。
Can’t Hide Love(キャント・ハイド・ラヴ)
リリース年:1975年
収録アルバム:灼熱の狂宴
キャント・ハイド・ラヴはアルバム「灼熱の狂宴」に収録されているリズム隊が冴え渡る、隠れた名曲です。
「ンチャッ、チャッチャッチャ」という冒頭のキメの時点で「これぞEWF!!」という驚きと共に鳥肌が立ってしまいます。このキメがそのまま楽曲の中でリフのように機能すると共に、スロウでメロウな空気の裏では16ビートの細やかなグルーヴが効いているのです。そのグルーヴが、一見シンプルで暗めな曲調をタイトに引き締めているという、やはりEWFでないと出来ない類の楽曲なのです。
Shining Star(シャイニング・スター)
リリース年:1975年
収録アルバム:暗黒への挑戦
「シャイニング・スター」は、EWFがR&Bの世界だけでなく、ポップスの世界にその名を轟かせた彼らの代表曲のひとつです。彼らにとって初の全米1位を飾ったこの曲は、カッティング・ギターと随所に入るホーン・セクション、エネルギー溢れるヴォーカルが小気味良いグルーヴを生み出しています。
70年代R&Bの特徴のひとつとも言える、ほんの少しだけハネているグルーヴィーなプレイが、後の名曲や、彼らにとどまらず80年代のR&Bでリズム・マシーンを使った楽曲作りの中で少しずつ霞んでいってしまう点にも言及しておきます。
後のR&B勢は洗練されたアレンジメントやキャッチーなメロディや演奏へ傾倒する中で演奏のグルーヴを置き去りにする一方、ボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェルなどのAOR勢はこの時期のR&Bのグルーヴを80年代になっても用いるという「逆転現象」が生じたのです。
ただ、EWFが凄いのは、どの時期のライブ音源を聴いてもそのグルーヴを多かれ少なかれ保ち続けている点です。ほとんどのリスナーや、下手するとミュージシャンにとって一体どうなっているのか分からないこのグルーヴこそが、彼らのアイデンティティであり、一番の魅力なのではないかと私は思います。
Getaway(ゲッタウェイ)
リリース年:1976年
収録アルバム:魂
「ゲッタウェイ」は曲の随所にホーン・セクションとリズム隊によるキメが冴え渡るディスコファンクなナンバーです。
この雰囲気はタワー・オブ・パワーやインコグニートを彷彿とさせますが、タワー・オブ・パワーよりも柔らかく、かつインコグニートよりは男気のあるサウンドが魅力的です!
1976年にリリースされたアルバム「魂」に収録されており、ビルボード全米チャート12位、R&Bチャートでは1位とヒットを飾り、後の「宇宙のファンタジー」や「ブギー・ワンダーランド」といったド定番の楽曲群へと繋がる布石となった一曲です。
Fantasy(宇宙のファンタジー)
リリース年:1977年
収録アルバム:太陽神
「EWFと言えばこの曲でしょ!」というファンも多い人気曲が「宇宙へのファンタジー」です。
1977年にリリースされたアルバム「太陽神」からシングルカットされたこの曲は、本国アメリカでは全米チャート32位、R&Bチャート12位とスマッシュヒット程度で終わったものの、当時ディスコブーム真っ只中の日本では大ヒットしました。
フィリップ・ベイリーのハイトーンボイスが冴え渡るこの曲は、多くの映画やテレビ番組で起用されているので耳にしたことのある方も多いかと思います。ボイストレーナー的観点から言うと、ある意味ミックスボイスが分かりやすい曲かもしれません。男性にとっての中音域から高音域までを何の切れ目もなく自由に行き交いながら歌う様は、聴いていてとてもセクシーでカッコ良いですよね!
Boogie Wonderland(ブギー・ワンダーランド)
リリース年:1979年
収録アルバム:黙示録
「ブギー・ワンダーランド」はEWFの代表曲であると共に、ディスコソングの有名曲でもあります。
分厚いコーラスを飾っているのは当時EWFがバックアップしていたエモーションズです!
ギラギラした雰囲気に軽快でファンキーな演奏、そしてジャズの複雑さにポップでキャッチーなメロディをも兼ね備えたこの曲はビルボード全米6位、R&Bチャート2位と大ヒットした名曲です。
After The Love Has Gone(アフター・ザ・ラヴ・ハズ・ゴーン)
リリース年:1979年
収録アルバム:黙示録
EWFを代表する名バラードソングとして名高いのが「アフター・ザ・ラヴ・ハズ・ゴーン」です。
1979年にリリースされたアルバム「黙示録」に収録され、シングルカットされたこの曲は、ビルボード全米2位を記録した他、世界各国で大ヒットし、グラミー最優秀R&B楽曲賞を受賞しました。
当時はまだ無名だった、後の名プロデューサー、デイヴィッド・フォスターに、スティーリー・ダンのレコーディングでその名を轟かせた名ギタリスト、ジェイ・グレイドン、シカゴにも加入していたビル・チャンプリンが提供したこの曲は、大ヒットした一方で、「ファンクバンドだったはずのEWFがAORやブラコンじみた曲をやるなんて!」と、批判の対象にもなったのです。
・・・この圧倒的クオリティの高さで批判されるなんて、当時のEWFの凄さがひしひしと伝わってきますね。
September(セプテンバー)
リリース年:1978年
収録アルバム:ファンタジー~パーフェクト・ベストなど
日本人にとって最も有名なEWFの曲はおそらく「セプテンバー」でしょう。ドラマの主題歌として、CMやTVの挿入歌としてほぼ必ず耳にしたことがあるでしょうし、野球が好きな方であれば2019年に引退した巨人の阿部慎之助選手がバッターボックスに入る際の曲として選んでおり、ファンもノリノリで盛り上がっているあの曲こそが「セプテンバー」です!
ディスコソング、70年代を代表するR&Bの名曲として認知されているこの曲は、EWFのヴォーカルを務めるフィリップ・ベイリー曰く
「この曲はコンサートでも毎回特別な思いをもって演奏している曲。EW&Fを代表する曲であると同時に、私たち自身にとっても最も大切な曲です。この曲が日本で愛され続けていることを本当に嬉しく思っています。」
という存在なのです。
そんな「セプテンバー」ですが、なんとオリジナルアルバムには収録されておらず、1978年にリリースしたベストアルバム「ベスト・オブ・EW & F Vol.1」に収録され、のちにシングルカットされているのです。
陽気でリズミカルな雰囲気にフィリップ・ベイリーのファルセットが映えるこの曲は、なんといっても「バー・ディ・ヤー・イヤー」と皆で口ずさめるリフレインが特徴的です。これはアメリカの古い音楽、ドゥーワップをオマージュした様式で、誰もがなんとなく歌えるのが素敵ですよね!
Let’s Groove(レッツ・グルーヴ)
リリース年:1981年
収録アルバム:天空の女神
これまでのEWFの楽曲とアルバム「天空の女神」以降の楽曲とで異なるのは、バンドの演奏にシンセやボコーダーを導入し、今日で言うところのエレクトロの要素を盛り込んだ点です。
「レッツ・グルーヴ」は当時最新鋭のサウンドを武器に、既存のファンクやジャズのミクスチャーとも言える音楽性に新たな要素を織り交ぜた楽曲なのです。とはいえ、既存のファンが求めているEWFはあくまでジャズやソウルを土台にしたファンク。にもかかわらず、積極的に電子楽器を取り入れ、次作を持ってホーン・セクションを取っ払ってしまった彼らは傍目には迷走していたようにしか見えなかったかもしれません。バンドはこの曲のヒット以降ふるわず、活動休止してしまうことに・・・。
最もおすすめな名盤は・・・「暗黒への挑戦」と「黙示録」
って、2つはダメでしょう!と思った方もいらっしゃいますよね(笑)
とはいえ、EWFは良くも悪くも音楽性が目まぐるしく変化しているので、ヒットする前のファンクバンド期とヒットした後のディスコ・AOR・ブラコン系バンドとで1作ずつ選びました!
「暗黒への挑戦」
ファンクバンド期からはEWFの出世作とも言える「暗黒への挑戦」をチョイスしました。
代表曲である「シャイニング・スター」と「暗黒への挑戦」が収録されているこのアルバムは、彼らの楽曲が洗練されていく過程を垣間見れるだけでなく、バンドが成り上がっていく時に必ず見られるイケイケなエネルギーが詰まっているのが選んだ理由です。
「黙示録」
一方、「黙示録」は「アフター・ザ・ラヴ・ハズ・ゴーン」や「ブギー・ワンダーランド」が収録されたディスコ・AOR・ブラコン系バンド期の名盤です。
この時期になると、EWFはプロデューサーやプレイヤーを選ぶ側になり、当時無名だったデイヴィッド・フォスターを筆頭に、セッションプレイヤーとしてTOTOのスティーヴ・ルカサーとスティーヴ・ポーカロが参加しています。
バンドとして円熟期に差し掛かった時期だけあって、「おれたちがR&Bのスタンダードさ」と言わんばかりの圧倒的な演奏や楽曲のクオリティーの高さが魅力的です。
EWFはベストアルバムから聴いてみるのがおすすめです!
EWFは、ここまで述べた通り、長いキャリアの中で音楽性が目まぐるしく変化しています。
多くの方にとって有名なのは、「セプテンバー」や「レッツ・グルーヴ」など、ディスコミュージック的な楽曲です。
他方で、バンドとして荒削りさや上昇志向、エネルギーをより感じられるのは1976年以前の楽曲です。
どちらもそれぞれ魅力的ではあるものの、そもそもの音楽性自体が決してキャッチーとは言えないところがあるので、まずはベストアルバムを手に取って聴いてみることをおすすめします!
さいごに
70年代から80年代初頭にかけて活躍し、今でもよく楽曲を耳にするアース・ウィンド&ファイアーの名曲・人気曲の中から10曲を厳選してみました。
EWFの楽曲を古い順に聴いていくと、彼らのサウンドが常に変化しながら進化を遂げていることに驚くはずです。それだけでなく、彼らのサウンドと共にR&Bのトレンドが変わってきたと言っても過言でないほど、「R&B」という音楽ジャンル自体が変化していったのが1970年代から80年代という時代です。
既存のR&Bにジャズやリズム・セクションの要素を取り入れ、難解な楽曲を作りながらもキャッチーなメロディ、親しみやすいアレンジで数々の名曲を発表し、一時代を築いたWEFの楽曲をお楽しみいただけたら幸いです。
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「セプテンバー」、「レッツ・グルーヴ」、「ゲッタウェイ」etc…。
今回取り上げた曲も含め、ジャンルやアーティストごとにたくさんの楽曲を聞くことが出来るのが特徴です。アプリを通して保存も出来るので飛行機や出先でもお手軽に楽曲を持ち歩けるのでとても便利ですよ。
アース・ウィンド&ファイアーの他にも、マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーなどの名盤・楽曲も聞き放題なのでとてもおすすめです!
Amazon Music Unlimitedについてまとめた記事も書いているので、参考になれば幸いです!
⇨Amazon Music Unlimitedをおすすめする6つの理由【料金・特徴・機能を解説】