AORの先駆者と言われるスティーリー・ダン。おそらくミュージシャンか音響に興味がある方でもなければ40代以下でその名前を聞いたことのない方が多いかと思います。
作曲家志望のドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーによるユニットの活動から始まったこのバンドは、ライブバンドではなく2人の精緻な理想を、一切の妥協を許さない姿勢で追求し、今日においても音響の世界で基準となっているような楽曲を制作した「レコーディングのためのユニット」でした。
今回はそんなスティーリー・ダンの名曲・代表曲から、ボイストレーナー/ミュージシャンである私が10曲を厳選して紹介します!
スティーリー・ダンとは
スティーリー・ダン結成まで
スティーリー・ダンは、ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーによるユニットが旧知の仲間を集めて結成したバンドです。作曲家志望だった2人は大学で出会って意気投合し、その後スタジオミュージシャンとしてその日暮らしをする中で、プロデューサー、ゲイリー・カッツに見出され、旧知の仲間を集めてバンド「スティーリー・ダン」を結成したのです。
ライブを嫌い、究極の曲作りを目指す姿勢
その後、メジャーデビューを果たし、後に紹介する「ドゥー・イット・アゲイン」で全米最高6位を飾りました。
バンドに限らず、ミュージシャンにとってライブ活動は必要不可欠であるものの、元々作曲家志望だった中心メンバーのドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーはライブ活動を嫌がりました。
その一方で、「究極の作品」を作ろうと外部の腕利きのミュージシャンを召集しレコーディングに励もうとし、メンバーは不仲に陥ってしまいました。
その結果、2人の元からは年々メンバーが去っていき、アメリカンポップス・AORの名盤「aja」がリリースされる頃には2人のユニットとなってしまったのです。
スティーリー・ダンの音楽的特徴
そんなスティーリー・ダンは広義ではアメリカンロックに分類されます。しかし、R&Bやジャズ、ラテンミュージックの要素が混ざっており、その洗練された独自のサウンドは今日でいうAORの原型となったのです。
彼らは複雑なコード進行を用いて既存のロックとは一線を画し、東海岸と西海岸の凄腕のスタジオミュージシャンを起用し、難解で高度な演奏を楽曲に盛り込みました。
とはいえ、ただ難解なだけではなく、1950〜60年代のポップスが持つキャッチーなメロディや親しみやすさや、ボブ・ディランに影響されたというドナルド・フェイゲが手がけるシニカルな歌詞や楽曲の世界観も相まって今日でも人気なのです。
Do It Again(ドゥ・イット・アゲイン)
リリース年:1972年
収録アルバム:キャント・バイ・ア・スリル
「ドゥ・イット・アゲイン」は1972年にリリースされたファーストアルバム「キャント・バイ・ア・スリル」に収録されている楽曲です。翌年にシングルカットされると全米最高6位を記録し、世間にスティーリー・ダンの名前を知らしめました。
まるでサンタナ(Santana)のようなラテンのテイストが漂うミディアムテンポの曲調が特徴的です。
ドラムとパーカッションによるビートとエレピのモワモワした音色が絡みあうことでこのおどろおどろしい感じにアンサンブルするわけですが、見どころはやはり中盤のエレクトリック・シタールのソロです。
Reelin’ In The Years(リーリン・イン・ジ・イヤーズ)
リリース年:1972年
収録アルバム:キャント・バイ・ア・スリル
1972年にリリースされたファーストアルバム「キャント・バイ・ア・スリル」に収録されているもうひとつの代表曲が「リーリン・イン・ジ・イヤーズ」です。この曲は全米最高11位とスマッシュヒットを記録しました。
この曲は古き良き時代のアメリカンロック調の、どこか牧歌的でカラっとした曲調に、ボブ・ディランのように喋るような歌が乗っかっているのが特徴的です。
アルバムタイトルの「キャント・バイ・ア・スリル」は、ボブ・ディランの「悲しみは果てしなく」の歌詞から取ったもので、ドナルド・フェイゲンはボブ・ディランの影響を受けていることを踏まえるとオマージュしているのかもしれませんね。
Rikki Don’t Lose That Number(邦題:「リキの電話番号」)
リリース年:1974年
収録アルバム:プレッツェル・ロジック
「リキの電話番号」は1974年にリリースされたアルバム「プレッツェル・ロジック」に収録されている楽曲です。のちにシングルカットされると全米最高4位を記録し、スティーリー・ダンにとって最もヒットした人気曲です。
アルバム「プレッツェル・ロジック」も全米最高8位を記録し、1974年当時に巷であふれていた他の音楽にはない、洗練されたポップな作風が輝きを放っていました。ただ、音楽的に独自の進歩を遂げる一方で、もはやバンドとは呼べないほどメンバーは不仲に陥り、ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの2人のユニットとなっていったのです。
ヴォーカルはドナルド・フェイゲンで、上手いかどうかはさておき、味のある歌を歌っているのが特徴的です。シンプルなベースラインにテンションがついたジャジーなピアノが乗っかった、洗練された雰囲気のこの曲は、いよいよAOR的な要素を感じざるを得ません。
スティーリー・ダンの楽曲を時系列順に並べて聴くと、アメリカンロックからAORヘ展開していく様子が手に取るように分かるので面白いです。
Aja(彩(エイジャ))
リリース年:1977年
収録アルバム:彩(エイジャ)
「彩(エイジャ)」は1977年にリリースされたスティーリー・ダン最大の同名のヒットアルバム「彩(エイジャ)」に収録されている楽曲です。
全米チャートで3位、全英チャートで5位を記録し、スティーリー・ダンにとって初のプラチナアルバムとなりました。そして、翌年にはグラミー賞の最優秀録音賞を受賞しました。
この曲の見どころはなんと言っても約8分という長尺の中にジャズ的な音作りやアレンジ、サックス奏者、ウェイン・ショーターのソロ、名ドラマー、スティーヴ・ガッドのグルーヴ感溢れるプレイ、そしてトップクラスのスタジオミュージシャンを数十人と起用し、彼らのプレイをパッチワークのごとく楽曲にはめこみ、壮大なパズルを仕上げたというところです。
崇高な理想を実現させるべく、腕利きのプレイヤーのテイクを見極め、しかるべき場所にはめ込んで制作したその執念というか、妥協しない姿勢が特にミュージシャンの間で高く評価されています。
Black Cow(ブラック・カウ)
リリース年:1977年
収録アルバム:彩(エイジャ)
1977年にリリースされたアルバム「彩(エイジャ)」に収録されている名曲のひとつが「ブラック・カウ」です。
この曲に限らずですが、ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの存在感はあまりなく、サポートミュージシャンを務めたギターのラリー・カールトン、ベースのチャック・レイニー、ドラムのポール・ハンフリーによるリズムセクションが見どころです。
いかんせん、演奏が凄まじすぎて歌がおまけ程度しか聞こえてこないのですが、それでもメロディーがキャッチーで親しみやすいのは流石です。
Deacon Blues(ディーコン・ブルース)
リリース年:1977年
収録アルバム:彩(エイジャ)
「ディーコン・ブルース」も、1977年にリリースされたアルバム「彩(エイジャ)」に収録されている代表曲です。シングルとしては全米最高19位を記録し、ファンの間でも人気曲として親しまれています。
ドラム界の生きる伝説、バーナード・パーディーが少しハネたビートを刻み、ギターのラリー・カールトンとリー・リトナーが地味にギターバトルを繰り広げ、かたやサックスのピート・クリストリーブはAORっぽく洗練され、そして情熱的な演奏をしているのが特徴的です。
Peg(ペグ)
リリース年:1977年
収録アルバム:彩(エイジャ)
全米最高11位、カナダでも最高7位に輝いた「Peg」もまた、1977年にリリースされたアルバム「彩(エイジャ)」に収録されている代表曲です。
スティーリー・ダンの楽曲の中では特にキャッチーで口ずさみやすいのが特徴的です。
エレピのポール・グリフィン、ベースのチャック・レイニー、ギターのスティーヴ・カーンとジェイ・グレイドンのプレイが冴え渡る中、注目すべきは当時ヒットソングを連発し、ドゥービー・ブラザーズのヴォーカルを務めていたマイケル・マクドナルドの存在感です。マイケル・マクドナルドの声によって、特徴的なコーラスとなっているのも見どころです!
Babylon Sisters(バビロン・シスターズ)
リリース年:1980年
収録アルバム:ガウチョ
1980年リリースのアルバム「ガウチョ」の1曲目に収録されている「バビロン・シスターズ」は、いかにもスティーリー・ダン的な、ジャズとロックが混ざったAORの雰囲気漂うミドルテンポの楽曲です。
前作のアルバム「彩(エイジャ)」でも凄まじいグルーヴを見せつけていたベースのチャック・レイニーとドラムのバーナード・パーディーのリズムセクションは必聴です。楽曲にうっすらと絡んでいるブラス・アンサンブルも相まって妖艶な感じがカッコ良いです。
Third World Man From(サード・ワールド・マン)
リリース年:1980年
収録アルバム:ガウチョ
1980年リリースのアルバム「ガウチョ」からはもう一曲、アルバムの最後を飾る名曲「サード・ワールド・マン」を選びました。
不思議な和音を基調としていて、多くのキメと共に明るくなったり暗くなったり、曲調がめくるめく変わっていく独特の雰囲気がスティーリー・ダンのファンにとってはたまらない一曲です。
決して分かりやすくカッコ良い曲ではないものの、一流ミュージシャンが奏でる音に耳を澄ませば澄ますほど、彼らの凄まじいテクニックやフィーリングがひしひしと感じられるはずです。それもそのはず。派手なプレイはしていないものの一音一音が歌っているベースのチャック・レイニー、タイトで細やかなビートを奏でるスティーヴ・ガッドのリズム隊にセクシーな音色のエレピを弾くジョー・サンプル、ギターのスティーヴ・カーンとラリー・カールトンが一切の妥協を許されない中で鬼気あふれる演奏をしているのだから。
地味な曲かもしれませんが、かなりおすすめの一曲ですよ!
Cousin Dupree(カズン・デュプリー)
リリース年:2000年
収録アルバム:トゥー・アゲインスト・ネイチャー
名盤「ガウチョ」をリリース後、スティーリー・ダンは休止期に入り、ドナルド・フェイゲンはソロ活動を開始し、ウォルター・ベッカーは麻薬中毒になってからプロデューサーとして復活し、2人は別々の道を歩んでいました。
しかし、1993年にドナルド・フェイゲンがソロアルバムをレコーディングする際に氷解した2人は2000年に復帰作「トゥー・アゲインスト・ネイチャー」をリリースしました。
その中で、後期スティーリー・ダンの代表曲とされているのが「カズン・デュプリー」です。
スティーリー・ダンの持ち味とも言えるシニカルなテイストが抜けつつも、緻密なサウンドメイクやジャジーな音使いは相変わらずなのが良いですね。
このアルバムは全米最高6位を記録し、グラミー賞では最優秀アルバムをはじめ、4部門を受賞し復活を飾ることが出来ました。
最もおすすめの名盤は「彩(エイジャ)」
スティーリー・ダンで最もおすすめな名盤はズバリ!「彩(エイジャ)」です!
ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーは本作のリリース以前までに、音作りやレコーディングに一切の妥協を許さず、結成時のミュージシャンを置き去りにする形で凄腕のスタジオミュージシャンを起用し続けました。
その結果、オリジナルはバンドから離れていき、代わりにトップクラスのスタジオミュージシャンが大集結し、本作がリリースされたのです。
ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーは、楽曲制作に対して一切の妥協を許さず完璧な演奏を求め、彼らに「この曲のこの部分だけ!」とか、「この曲だけ参加で!」という失礼(?)な指示を出し続け、「彩(エイジャ)」を完成させたのです。
セールス面では全米チャート最高3位、全英チャートで最高5位と大ヒットし、グラミー賞の最優秀録音賞なども獲得し、スティーリー・ダンの評価を確実なものにしたのです。
音楽面は、当初アメリカンロックやフォークの牧歌的な雰囲気は減衰し、代わりにジャズやR&Bの要素が強まり(黒人プレイヤーを複数起用していることも注目すべき)、AORのプロトタイプを作り上げたのです。
70年代屈指の名盤とされる本作はスティーリー・ダンを知る上で必聴の一枚です!
さいごに
スティーリー・ダンは、その凄まじいストイックさが後世に語り継がれる少々特殊なバンドです。
キャッチーでポップな感覚と、あらゆる音楽ジャンルの要素を織り交ぜながらのちのクロスオーバーやAORへ到るようなサウンドを構築し、70年代〜80年代初頭にかけてアメリカンポップスの新時代を築いていったことは評価されるべき部分です。
そして、彼らの代表曲をこのように、時系列順で聴いていくとサウンドが徐々に洗練されていき、音楽性が確立されていく様が手に取るように分かるのが面白いです。
ぜひスティーリー・ダンの楽曲を、この記事を読みながらお楽しみいただければと思います!
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「彩(エイジャ)」、「リキの電話番号」、「ペグ」etc…。
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