AORの代表格と称されるアーティスト、ビル・ラバウンティ。
1970年代末から1980年代にかけて高い人気を誇ったビル・ラバウンティは、「リヴィン・イット・アップ」や「涙は今夜だけ」といった名曲を世に出し、後世のミュージシャンに影響を与えました。
今回はそんなビル・ラバウンティの名曲・代表曲から、ボイストレーナー/ミュージシャンである私が10曲を厳選して紹介します!
ビル・ラバウンティについて
ビル・ラバウンティは、アメリカ合衆国・ウィスコンシン州出身のシンガー・ソングライターです。
1975年にバンド、ファット・チャンスのメンバーとしてプロミュージシャンのキャリアをスタートさせたのち、作詞作曲の才能が注目されてソロ活動を開始しました。
その後、AOR(アダルト・コンテンポラリー)の代表格として有名になっていったわけですが、ヒットしてから早々に第一線からフェードアウトしナッシュビルへ生活の拠点を移し、1990年代にはカントリー・ミュージックへ音楽性を変えていきました。
ビル・ラバウンティの音楽性
ビル・ラバウンティはAORの王道を行く、都会的で洗練された雰囲気の楽曲が特徴的です。
それと同時に、ボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェル同様、R&Bの薫りを纏ったブルー・アイド・ソウル的な歌い方をする点も特徴的です。
ソロ名義で活動開始してから、チャック・レイニーやジェイムズ・テイラー、ジェフ・ポーカロといった一流ミュージシャンを起用し世に繰り出した曲の数々はAORのど真ん中でありながらも、一瞬でビル・ラバウンティの楽曲だと分かってしまう個性の強さがあります。
セクシーな鍵盤の音色やハスキーで艶やかながら癒し系なヴォーカル、派手ではないものの口ずさみやすいキャッチーなメロディ。
ボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェルほどの派手さや華やかさはない一方、構えずにまるで空気のようにすっと聴けるのがビル・ラバウンティの音楽です。
This Night Won’t Last Forever( ジス・ナイト・ウォント・ラスト・フォーエバー/ 邦題:涙は今夜だけ)
リリース年:1978年
収録アルバム:「ジス・ナイト・ウォント・ラスト・フォーエバー」
ビル・ラバウンティにとって初のヒットとなったセカンドアルバム「ジス・ナイト・ウォント・ラスト・フォーエバー」に収録されている表題曲でもある「ジス・ナイト・ウォント・ラスト・フォーエバー(邦題:「涙は今夜だけ」)」。キャッチーかつ切ない旋律が魅力的なこちらの曲はAORフリークの間では「永遠の名曲」との称される代表曲です。
バックにリー・リトナー(g)、レイ・パーカー・Jr.(g)、ジェフ・ポーカロ(ds)、ら名うてのミュージシャンが参加した本作は全米最高19位に輝き、1990年には日本のテレビドラマ「すてきな片思い」の挿入歌としてリバイバル・ヒットしました。
Dancin’ Tonight(ダンシン・トゥナイト)
リリース年:1979年
収録アルバム:「レイン・イン・マイ・ライフ」
サードアルバム「レイン・イン・マイ・ライフ」に収録された「ダンシン・トゥナイト」は派手さはあまりないものの、華やかなコーラスやサックスの音色が素敵なR&B/ソウル色の強い名曲です。
こちらの曲は先にご紹介した「ジス・ナイト・ウォント・ラスト・フォーエバー」と同様、マイケル・ジョンソンへ提供したナンバーとしても魅力を放っています。
Little Rivers(リトル・リヴァーズ)
リリース年:1979年
収録アルバム:「レイン・イン・マイ・ライフ」
先の「ダンシン・トゥナイト」と同様、サードアルバム「レイン・イン・マイ・ライフ」に収録されているメロウでスイートなバラードが「リトル・リヴァーズ」です。
エレピによる甘いイントロや歌い出し、若干ハネたビートでドラムインしてからサビへ向けて盛り上がる様、ビル・ラバウンティの持ち味である哀愁漂う歌声・・・世間的に、あるいはAORファンにとってもあまり注目されない本作の中で淡く光るいぶし銀の名曲と言えます。
Livin’ It Up(リヴィン・イット・アップ)
リリース年:1982年
収録アルバム:「ビル・ラバウンティ」
前作「レイン・イン・マイ・ライフ」から約3年の時を経て自身の名前を冠してリリースされた4作目のアルバム「ビル・ラバウンティ」はAORという音楽ジャンルの中でも最も人気が高い名盤中の名盤と言えます。
当時最も脂が乗っていた名サックス・プレイヤー、デヴィッド・サンボーンに加え、スティーヴ・ルカサー(g)、ディーン・パークス(g)、チャック・レイニー(b)、ウィリー・ウィークス(b)、ジェフ・ポーカロ(ds)らAOR畑最強のミュージシャンが集結し、ドナルド・フェイゲン「ナイトフライ」のような盤石な布陣がインパクト大です!
本作のでもビル・ラバウンティを代表する曲として流行りに流行ったのが「リヴィン・イット・アップ」です。
イントロのフェンダー・ローズ(エレピ)は本人が、ドラムはスティーヴ・ガッド、サックスはデヴィッド・サンボーン、そしてコーラスにパティ・オースティンという夢のような組み合わせによるこちらの曲。キャッチーかつ哀愁漂うメロディとシンプルにしてインパクトの強い各楽器の音色、そして何よりハスキーで少しこもった声質の歌声が絶妙に絡み合っています。
見どころは2番サビ後にやってくるサンボーンのエモーショナルなサックスの音色、そこに被せるようにスキャットするビル・ラバウンティの歌声との絡み合いです。洗練されたアーバンな雰囲気と思いがけず表出する熱っぽさ、AORが持つアンビバレントな魅力はこの瞬間に詰まっています。
Slow Fade(スロウ・フェード)
リリース年:1982年
収録アルバム:「ビル・ラバウンティ」
4作目のアルバム「ビル・ラバウンティ」に収録されているスローテンポなバラード「スロウ・フェード」。
豪華なストリングス、デヴィッド・サンボーンによるサックス、ビル・ラバウンティ本人によるエレピが冴え渡る名曲です。
ビル・ラバウンティはAORの代表格であるボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェルほど派手な歌い回しをしたり存在感ある感じではない一方、こういったこじんまりした曲を軽やかに繊細に歌い上げる腕前は二人以上なのではないかと考えています。
Comin’ Back(カミン・バック)
リリース年:1982年
収録アルバム:「ビル・ラバウンティ」
「カミン・バック」も4作目のアルバム「ビル・ラバウンティ」に収録されているアップテンポで爽やかな名曲です。
サウンドの中核にシンプルなカッティングギターが位置し、そこに楽曲を盛り立てるホーン・セクションやコーラス、比較的多めなキメが気持ち良いグルーヴを生み出しています。
「リヴィン・イット・アップ」のようなソウルフルな楽曲だけでなく、こうしたウエストコーストな雰囲気溢れる楽曲も同居しているのが名盤「ビル・ラバウンティ」の凄さと言えます。
Look Who’s Lonely Now(ルック・フーズ・ロンリー・ナウ)
リリース年:1982年
収録アルバム:「ビル・ラバウンティ」
同じくアルバム「ビル・ラバウンティ」に収録されているリズミカルで華やかなホーン・セクションが特徴的な楽曲が「ルック・フーズ・ロンリー・ナウ」です。
リッキー・ピーターソンやランディー・クロフォードらがカヴァーしたことでも有名なこちらの曲は、ポップでキャッチーな旋律に洗練されたアレンジメント、そしてビル・ラバウンティのブルージーでブラックな雰囲気漂うヴォーカルが絶妙に合っています。
Secrets(シークレッツ)
リリース年:1982年
収録アルバム:「ビル・ラバウンティ」
アルバム「ビル・ラバウンティ」のラストを飾るスローバラードが「シークレッツ」です。
他の収録曲よりバンド演奏が控えめでヴォーカルが前面に出ているのが特徴で、歌モノとして必要な要素だけを残しながら派手さを徹底的に削ぎ落とすビル・ラバウンティの敏腕が伺えます。
華やかで賑やかなのが80年代ポップスの特徴なのですが、こちらの曲はまるで腕の良いフレンチシェフが振る舞う、素材の良さを生かした飾り気のない一皿のようなものです。それはビル・ラバウンティの音楽全般に言えることなのかもしれないのですけどね。
The Right Direction(ザ・ライト・ディレクション)
リリース年:1991年
収録アルバム:「恋のゆくえ ― ザ・ライト・ディレクション」
1991年に月9ドラマで「涙は今夜だけ」が起用されたことにより、日本ではビル・ラバウンティのリバイバル・ヒットが起こりました。そんなタイミングでリリースされたアルバム「恋のゆくえ ― ザ・ライト・ディレクション」に収録されている表題曲「ザ・ライト・ディレクション」は、「一発屋」と評されるビル・ラバウンティの評価を良い意味で裏切る名曲と言えます。
本作はAORというよりもR&Bへ傾倒した気のあるアダルト・コンテンポラリーに近い音作りをしているわけですが、どこか80年代後半のボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェルの楽曲に通ずるような都会的で洗練された雰囲気が漂っています。
細やかなビートや歌い回し、電子音が前面に出たアレンジがきっとそうさせるのでしょう。やはりチャートの上位に食い込むような華やかさはないものの、ビル・ラバウンティの卓越したメロディ・センスがひしひしと感じられます。
Funny But I Still Love You(ファニー・バット・アイ・スティル・ラヴ・ユー)
リリース年:2014年
収録アルバム:「イントゥ・サムシング・ブルー」
ビルは1991年に「恋のゆくえ ― ザ・ライト・ディレクション」をリリースして以降、表舞台から消えて楽曲提供へ活動スタイルを変えると共にカントリー・ミュージックへ傾倒しいきます。
2014年、かなりの時を経てリリースされたアルバム「イントゥ・サムシング・ブルー」からピックアップするのはレイ・チャールズのカヴァーである「ファニー・バット・アイ・スティル・ラヴ・ユー」です。
リック・チュダコフがプロデュースを務める他、盟友の凄腕ギタリスト、ラリー・カールトンをはじめとしたナッシュビル の一流ミュージシャンが参加しているだけあって、ブルージーでカントリーな雰囲気が漂いながらもどこか洗練された印象があります。
最もおすすめの名盤は「ビル・ラバウンティ」
ビル・ラバウンティで最もおすすめな名盤はズバリ!「ビル・ラバウンティ」です!
・・・今回の記事で5曲も取り上げているだけあってお察しと言う感じではあるものの、音楽の世界における本作の存在感は他のAORの名盤が霞むほどであり、まさしくマスターピースという呼び名にふさわしい作品です。
AORという音楽ジャンルは一般的に洗練された都会的な雰囲気のサウンドで、ミュージシャンはロックやフォーク、R&Bやソウル、ジャズなどあらゆるバックグラウンドを有していると言われています。
本作が凄まじいのは各楽曲の絶妙なさじ加減です。ブラックミュージックの要素を感じさせつつも、どこか洗練されている。そして、洗練されているがゆえに聴き流しやすい一方、良く耳を澄ませるとシンプルなアレンジやプレイがやたらと凝っている。それだけでなく、実は起伏に富んでいてブルースやロックのヴォーカルのように情熱的に歌ったりもする。
こうした一見相反するアンビバレントな要素が絶妙なバランスで佇んでいるのが本作の魅力なのです。
ベスト盤もあります!
まとめ
ビル・ラバウンティはAORを代表するアーティストです。ポップでキャッチーなメロディや楽曲に、洗練された都会的な雰囲気と熱っぽくて粘っこい雰囲気が同居していて、本当にAORとしか分類の仕様がない音楽性の持ち主です。
90年代以降に志向する音楽ジャンルがカントリーやブルース方面に変わっていってしまい、往年のAORファンとしては残念かもしれません。
しかし、フィールドを変えても本質的な部分を変えずに良質な楽曲を生み出し続けられることは素晴らしいです。
ぜひビル・ラバウンティの楽曲を、この記事を読みながらより一層お楽しみいただければと思います!
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