“A Song For You”と言われて思い浮かぶのはどのアーティストのバージョンでしょうか?
作曲者であるLeon Russell(レオン・ラッセル)のオリジナルをはじめとして、Carpenters(カーペンターズ)やRay Charles(レイ・チャールズ)のバージョンなどがパッと浮かんできます。
今回は、洋楽の数ある名曲の中でも特に愛されている”A Song For You”を特集していきます。
“A Song For You”について
“A Song for You”(ア・ソング・フォー・ユー)は、アメリカのシンガーソングライター、Leon Russell(レオン・ラッセル)が1970年発表したアルバム『Leon Russell』に収録された楽曲です。
アメリカのBillboard 200では60位を記録しており、日本盤LP (RJ-5060)はオリコンLPチャートで62位を記録しています。
この曲は特に黒人ヴォーカリストに愛されており、R&B・ソウルミュージックのスタンダードして名高い存在です。
シンプルなピアノの音色に美しい旋律が特徴的なこの曲は、シンプルであるが故に歌い手の歌唱力やフィーリングが問われます。ここからは名だたるヴォーカリストが歌う”A Song For You”をご紹介してまいります。
Leon Russell(レオン・ラッセル)のオリジナルver.(『Leon Russell』収録)
レオン・ラッセルは一般のリスナーというより、ミュージシャンやコンポーザー(制作者)が好むような立ち位置の人物かもしれません。
Carpenters(カーペンターズ) ver.(『A Song for You』収録)
カレンが歌うと、たとえ英語で何を言っているのかよく分からなくても、どんな雰囲気の曲でも温度を感じられます。
Ray Charles(レイ・チャールズ)ver.(『My World』収録)
レイ・チャールズのバージョンはオリジナルに忠実にカヴァーしていますね。
ただ、持ち味である低音の伸びやスモーキーな声の渋みが全開で出ているのが原曲と違う点です。
Aretha Franklin(アレサ・フランクリン)ver.(『Let Me In Your Life』収録)
アレサ・フランクリンはいついかなる時も「自分の型」にあらゆる曲を落とし込んで、完全に自分の曲にしてしまう力が抜きん出ています。
この曲でもその才能が遺憾無く発揮されていて、オリジナルはあくまでエッセンス程度になっているのがアレサの凄いところです。
Amy Winehouse(エイミー・ワインハウス)ver.(『Lioness: Hidden Treasures』収録)
エイミー・ワインハウス。私が取り上げるようなオールドスクールのアーティストは世代だけど、若い世代の音楽を聴かない方はいますぐに聴くべきヴォーカリストです。
エイミーのくすんだ感じの気だるい声にかかれば、アレサのバージョンとは全く違った曲になります。
Whitney Houston(ホイットニー・ヒューストン)ver.(『Welcome Home Heroes, 1991』収録)
泣く子も黙る伝説のR&Bシンガー、ホイットニー・ヒューストンのバージョンは、他のどのバージョンよりも「聴け!」という強い意志のようなものを感じます。
Donny Hathaway(ダニー・ハサウェイ) ver.(『Donny Hathaway』収録)
私が真っ先に思い浮かぶのはDonny Hathaway(ダニー・ハサウェイ)のバージョンです。
R&Bの定番中の定番でMarvin Gayeの”What’s Going On”という曲がありますが、それをカヴァーしたものが入ったアルバムを聴いた時に大きな衝撃を受けました。
それから古いR&Bの名盤を聴き漁っていく中で、ダニー・ハサウェイの”A Song for You”と出会いました。
この曲だけでも様々な「名演」があります。
世界中の人達が素晴らしい演奏をするわけですが、私はその中でもDonny Hathawayのバージョンが一番好きです。
イントロを弾き始めた瞬間からざわめく観衆、次第に「ここは静かにしなきゃいけないんじゃないか」というある種厳かな雰囲気になり歓声が消えていく。そこからピアノが緩やかにテンポを落としながらタメにタメて、静寂の中から”I’ve been so many places in my life and time”と歌い出す。沈黙に耐え切れなくなった観衆が否応なしにざわめき出す。ざわめくのだが、やはりまた静まる。
Donny Hathawayのライブ盤はR&B・Soulの世界では名盤中の名盤となっていますが、あまり日本での知名度は高くないので詳しい人でないと知らないかもしれません。
あまりに凄い歌の前では、人は沈黙せざるを得ないのではないか。見事に人をどこかに「連れていって」います。
といっても「連れていかれる」という感覚が体感的に分からない方が多いと思います。否応なしに歌に引き込まれて、無我夢中で引きずり回されるような、そんな感覚。
人を惹きつけるというステップの先に「惹きつけざるをえなくさせる」という次元があるのではないかと、彼の歌を聴く度に考えてしまいます。
R&Bのナンバーワンはスティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソンなのかもしれませんが、ダニー・ハサウェイは確実にオンリーワンなミュージシャン・ヴォーカリストであり、時代やトレンドの変化に流されない普遍性の持ち主です。
しかし、こんな才能があるにもかかわらず、若くして亡くなってしまいました。
もし生きていたら一体どんな曲を書いていたのだろうか、どんな風に歌っていたのだろうか。
そんなことを考えると物悲しくなります。
迷える若かりし頃の自分に、どんな音楽をしたいのか、ひとつの解答を示してくれたのがDonny Hathawayでした。
コメントを残す