「普段どんな練習をしたら良いですか?」
「ライブ前にどんな声出しをされているんですか?」
レッスンをしていると、よく生徒さんからこんな質問をされます。答えはリップロールです。諸般の兼ね合いで唇が震えない限り、ダントツでリップロールをおすすめしています。
以前、Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)も練習でリップロールを取り入れていたという記事を書きました。
とはいえ、洋楽に馴染みのない方もいらっしゃると思うので、今回は邦楽のレジェンドに触れながら話をしていきます。
この映像は、日本が世界に誇るメタルバンド・LOUDNESSのヴォーカルである二井原実さんと、これまた日本最強のロックバンドと言われるB’zのヴォーカルである稲葉浩志さんの対談です。この対談の中でリップロールの話が登場します(17:50頃〜)。
Michael Jacksonだけではなく、日本トップクラスのヴォーカリストである二井原さんや稲葉さんも練習に取り入れているリップロール。リップロールの効果を踏まえて効率的に練習することで声が良くなっていくので、この記事を読んでぜひチャレンジしてみてください!
リップロールとは?
リップロールとは、上の動画のように、唇を軽く触れ合わせた状態で息を吐き、唇をブルブルと振動させる練習方法です。
一見ふざけた練習ですが、レッスンの現場では声が劇的に変わることが良くあります。声が出やすくなり、表情もやわらかくなり、ついウキウキしてしまう、素晴らしい練習方法なのです。
多かれ少なかれ効果が出るので、「ツカミ」で多用しがちです。なので、リップロールばかり繰り出すボイストレーナーは、ちょっと疑ってみても良いかもしれませんね。
リップロールの効果
唇や表情筋がほぐれる
リップロールによって首〜顔周辺が振動することで、唇や表情筋がほぐれるので、ウォーミングアップの効果があります。
次に、顔周辺のパーツを柔らかく動かせるようになるので、発音(滑舌)が明瞭になります。
また、口の中のスペースをより広げられ、声の響きが良くなります。
のどがほぐれる
先の二井原さんと稲葉さんの対談でも触れておりましたが、リップロールをすることによってのどを脱力出来、ウォーミングアップ効果が見込めます。レコーディングやリハーサルの前に、ヴォーカリストがリップロールをする光景を見ないことがない位、現場では定番の練習です。
腹式呼吸の練習になる
リップロールをするには、吐く息のペースを一定に保てないとすぐに唇の振動が止まってしまいます。リップロールを続けようと息の配分のコントロールを取ろうとする際、自然な形で腹式呼吸の状態になるのです。
音程を正しく歌う練習になる
先に触れた通り、リップロールをすることで息を一定のペースで吐けるため、それに連動して声を出した際の音程が安定していきます。音程は声帯の動きによって決まるのですが、声帯の先に位置する唇・口腔の形や力加減によって、声帯も連動して力んでしまうことがあります。
顔全体やのどがほぐれた状態で、吐く息が安定した状態で声を出すことで、声帯のみで音程をコントロールすることができるようになります。
その結果、声帯の開け閉めのコントロール、音程が上下する際のコントロールといった部分が鍛えられ、音程が良くなるのです。
高音と低音をなめらかに「つなぐ」練習になる
声を張り上げる傾向にある方は、高音にいくにつれ力みが増し、徐々に「のど声」となります。
声が裏返る傾向にある方は、とあるポイントで抜けてはいけない力がパッと抜けて裏声になってしまいます。
いずれも、力加減が原因となってなめらかに発声出来ないのですが、リップロールをしながら、地声〜裏声にまたがり発声することによって、声を「つなぐ」感覚が身に付きます。この「つなぐ感覚」は、特にR&Bを歌いたい方には重要です。
90年代に大活躍したR&Bのレジェンド、Boyz Ⅱ Menとコーラスグループの”End Of The Road”という曲。
この曲には黒人独特の縦横無尽に低音〜高音を行き交う声の「やわらかさ」や「細かさ」といった、R&Bのエッセンスが凝縮されています。
「つなぐ」感覚がないと、どこかで力むか変に力が抜けて声が思いもよらぬ形で「ギアチェンジ」してしまい、こんな風にやわらかく細かいフレーズを歌えません(逆に言えば、つなぐ感覚が研ぎ澄まされるほど、洋楽に出てくるような細かいフレーズの再現性が高まるということです)
リップロールのやり方・練習方法
ここからは、注意点やポイントに触れながら3つの段階に分けてやり方を解説していきます。
まずは、声を乗せず、息だけ吐き出してブルブル震える感覚を掴んでいきましょう。
①唇を軽く閉じる
まず、唇を軽く閉じます。海苔一枚を唇に挟むくらいの力感がちょうど良いです。
②鼻から息を吸う
息を鼻から吸うか、それとも口から吸うか。
意見が分かれるところなのですが、私は息を鼻から吸うことをおすすめします。なぜなら、息を口から吸うと口からのどにかけて乾燥してしまい、歌いづらくなるからです。
一方、息を鼻から吸う場合、鼻腔内は湿度が高い為、吸気(息を吸う動き)の際に口やのどの乾燥を防ぐことができるのです。練習においても、こうした細かい点に気をつけてみることで歌の上達が早くなります!
③唇を閉じたまま、少し突き出し、口から息を吐きながら唇を「ブルブル」と震えさせる
唇はいわゆる「アヒル口」を、もう少しゆるめた位がちょうど良いです。
この状態で、「ふぅー」とため息を長めにつく位の力感で息を吐き出してみましょう。
うまく行かない場合はこちらを試してみてください。
・唇を湿らせてみる
・指でほほを後ろ側や上側へ軽く引っ張りながら試してみる
・唇の閉まり具合を調整してみる
・顔を指でゴリゴリとマッサージしてみる
一度ブルブルさせる感じを掴めると、あとは自転車に乗るのと同様、簡単にできるようになります。
日本人は、一般的に表情に乏しい傾向があり、また日本語も表情筋をさほど使わず発音出来てしまう為、表情筋や唇が固くなっている方が多いです。また、仕事をした後や緊張することがあった後なども、顔がこわばってしまいがちなので、試行錯誤しながら震えさせる感覚を掴んでいきましょう!
リップロールを使った色々な練習方法
ブルブル震える感覚が掴めたら、ここから先は色々な練習方法を試してみましょう。少しずつ難しくなっていきますが、練習と実際の歌が「つながる」ところまでご案内するので、ぜひモノにしてください!
①音を出しながらブルブルさせてみる
どんな高さの音でも良いです。あなたにとって出しやすい高さの音を適当に口ずさみながらリップロールさせます。この際、「ぶぅーーー」という発音でブルブルさせてみることで音を乗せやすくなります。
慣れてきたら低い音や高い音、裏声でも試してみましょう。
②音階を行き交いながらブルブルさせてみる
当サイトでは度々、専門用語が登場します。都度で解説を挟むように心がけますが、用語を知っておくと吸収が早くなるのでぜひ覚えてみてくださいね!
「音階」というのは、読んで字のごとく、というか書いて字のごとく、「音の階段」のことを指します。ドレミファソラシド〜、というやつです。英語でScale(スケール)と言うのですが、つまり「音のものさし」なのです。音を高低で捉えつつ、ものさしのように捉えることが大事です。
教室・スクールで先生について歌を習っている場合は、先生のジャッジが入るので心配なくここに取り組めるのですが、独学で取り組んでいる方は、音程についてのジャッジ、あるいは特定の高さにおいての力みのジャッジといった部分が自分で出来ません。
なので、独学の方は、スマートフォンのボイスメモなど録音アプリでご自身の声を録音しながら練習することをおすすめします。「はたから」聴く分には、自分の声の「アラ」が分かりやすいので、毎回とは言いませんがたまに試してみましょう。
音階練習については、いまどきはボイトレのアプリや動画サイトでの音源が充実しています。近日中に動画で配信しようと計画していますので乞うご期待くださいませ!
③低音と高音を行き交いながらブルブルさせてみる
こちらは音階を行き交う練習と並行して大丈夫です。離れた音階で行き交うパターンもあるのですが、ここでは「音程は気にせず、低音→高音、高音→低音、低音→高音→低音」の流れで音を出しながらリップロールする方法を紹介します。
この際、声は「地声の範囲内で」、「裏声の範囲内で」、「地声と裏声を行き交って」の3パターンで出します。イメージとしては消防車や救急車のサイレンです。実際に、サイレントレーニングという名前も付いている練習方法です。
これをリップロールと掛け合わせることで、特にのど周辺のパーツの、音程を調整する力を鍛える効果がより高まります。
④メロディーを口ずさみながらブルブルしてみる
元々ある程度歌える方や、裏声をさらっと出せる方はさらっとここまでたどり着けるかもしれません。
リップロールで、歌いたい曲のメロディーを口ずさむ。これがシンプルにして究極の練習方法です。
これをやることで得られる最高のメリットは、「歌いたい曲を歌う時の身体の良い力感が掴める」ことです。特に高くてのどが締まってしまうようなメロディー、声が裏返ってしまうようなメロディーで試してみるとさらっと口ずさめてしまうことがしばしばあります。
そんなことを言われるとここから試してみたくなるかもしれませんが、基礎が大事なのでイチから順番に試してみてくださいね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?リップロールはあらゆるメリットがあり、お手軽に出来る練習方法です。また、リップロールに色んなバリエーションを加えることで飽きずに取り組めるかと思います。
独学でやってもあまりデメリットのない練習方法なので、「ボイトレすると声って変わるのかなぁ?」と、ボイトレに興味がある方はぜひ試してみてくださいね。
リップロールは、テレビや動画サイトを見ながら、シャワーを浴びながらリラックスした状態で試してみるのもおすすめです。この記事を見ながらぜひチャレンジしてみましょう!