ボイストレーナーをしているとこのようなことをよく質問されます。
ここ10年位でボイストレーニングのトレンドとなっている「ミックスボイス」。
多くのボイストレーナーがミックスボイスを、「中音域の声を、地声と裏声を混ぜるような感覚で発声すること」といったニュアンスで用いています。
その一方で、「地声と裏声は混ざりません!」と声高に言っている方もいます。
かと思えば、そもそもミックスボイスという単語を使わず、その代わりに「ミドルボイス」という単語を用いる方もいます。
いかんせん、発声理論には色々な流派があるため、一体何が正解なのか不確かで分かりにくいですよね。
今回は、そんな「ミックスボイス」、そして「ミドルボイス」の定義や違いについて、実例を用いながら徹底解説してまいります。
ミックスボイスとミドルボイスの定義とは?
発声理論の流派による解釈の違いはありますが、私は以下のように解釈しています。
まず、ミックスボイスというのは
地声⇔ミドルボイス⇔裏声
を自由に行き交い、音色もコントロールしながら出している状態の声のことを指します。
この状態を「声区融合」(せいくゆうごう)とも言います。
そして、ミドルボイスというのは
地声(チェストボイス・胸声)と裏声(ファルセット)の中間のような声のことを指します。
あるいは地声と裏声が混ざったような声とも言われます。
- ミックスボイス(Mixed Voice) :
声を行き交ったりグラデーションさせる感覚や技術、状態 - ミドルボイス(Middle Voice) :
声区のひとつ(中音域)、範囲
ミックスボイスとミドルボイスの違いとは?
これは例を用いて説明してみますね。
マニュアルの車やバイクの運転を想像してみてください。
声には大きく3つのギアがあります。それは、低音域ー中音域ー高音域です。
声区で分類するならば、胸声ー中声ー頭声の3つです。
そして、これらを英訳するとそれぞれ”Chest Voice” – “Middle Voice” – “Head Voice”となります。
ここまでに触れた「ミドルボイス」というのは中音域のことであり、中声のことです。
つまり「いくつかある声のギアのうち、ひとつの段階」ということになります。
次に、ミックスボイスはどう捉えるべきでしょうか。
これは、「いくつかある声のギアを、滞りなくギアチェンジさせる感覚や技術」と言えます。
言い換えると、「低音ー中音ー高音(胸声ー中声(ミドルボイス)ー頭声)を淀みなく行き交うことができる感覚や技術」ということになります。
- ミックスボイス(Mixed Voice) :
低音ー中音ー高音(胸声ー中声(ミドルボイス)ー頭声)を淀みなく行き交うことができる感覚や技術 - ミドルボイス(Middle Voice) :
中音域のことであり、中声のこと。いくつかある声のギアのうち、ひとつの段階
ミドルボイス=一般的な意味合いでのミックスボイス!
巷ではミックスボイスとミドルボイスがごっちゃになっている
ここまでサラサラと解説していきましたが、一般的に用いられている「ミックスボイス」は私が「ミドルボイス」として定義している意味合いと一緒です。
さらにいえば、一般的に用いられている「ミックスボイス」には、先ほど定義した「ミドルボイス」と「ミックスボイス」の両方の意味合いがごっちゃに混ざっていることが多いです。
middle voice, mix voiceと英語で検索をすると・・・
英語がある程度得意な方は、ためしに”middle voice” , そして”mix voice”あるいは”mixed voice”という単語でYoutubeやインターネットで検索をかけてみてください。
すると、日本の方が出したいと思う「ミックスボイス」は”middle voice”として解説されています。
なんだか混乱しますよね。。。
でも大丈夫です!ここからは動画で実例を挙げながら説明していくので、声を参考にして違いを掴んでいきましょう。
ミドルボイスを駆使するアーティスト・楽曲
ミドルボイスを駆使するアーティスト・楽曲<男性編>
Bruno Mars – Just The Way You Are
Bruno Mars(ブルーノ・マーズ)の発声は低音から高音まで、特にミドルボイス〜ファルセット、ヘッドボイスをきれいに、そして力強く歌いこなせるのが特徴です(サビを参照)。
柔らかめなミドルボイスも力強いミドルボイスも、両方できるのがBruno Marsの強みです。
Maroon 5 – Payphone (Explicit) ft. Wiz Khalifa
Maroon 5(マルーン・ファイブ)のAdam Levine(アダム・レヴィーン)の発声は、正直さほどきれいではないものの、ミドルボイスから柔らかめなヘッドボイスやファルセットへの移行時の声がとてもセクシーなのが特徴です(冒頭のサビ参照)。
三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE – R.Y.U.S.E.I.
日本でも、近年のアーティストはミドルボイス、そしてミックスボイスが必修化されつつあるような流れになっています。
三代目の今市隆二さんや登坂 広臣さんも、きれいに低音から高音を行き交うミックスボイスを駆使して歌っています。
ミドルボイスを駆使するアーティスト・楽曲<女性編>
Rihanna – We Found Love ft. Calvin Harris
Rihanna(リアーナ)の発声は、R&Bの中でもかなり柔らかめにミドルボイスを発する傾向があります。
そして、ミドルボイスで歌う中で瞬間的にファルセットへ移ろうのが特徴です。
“We Found Love”のサビの中では、よく聴いてみるとメロディラインの高めな音がファルセットになっています。
おそらく強く発声したらミドルボイスのまま歌えるのでしょうが、あえてファルセットに移行することで柔らかくて色気のある歌い回しにしているのです。
Carly Rae Jepsen – Call Me Maybe
Carly Rae Jepsen(カーリー・レイ・ジェプセン)の発声は、さほど高音をガンガン歌うわけではないものの、力強すぎない程度にハリがあるミドルボイスが特徴です。
キャッチーで陽気なメロディに対して歌声が強すぎるとこの感じにはなりません。
Carlyは適度にハリのあるミドルボイスでその絶妙なバランスを取っているのだと推測しています。
あいみょん – 君はロックを聴かない
あいみょんの発声は、ハスキー気味で低音の成分が強いまま、高音までさらっとしたミドルボイスで歌うのが特徴です。
一般の女性が歌ってみると、あいみょんの曲は意外と高くて本人のようにさらっと出ないことが多いのではないでしょうか?
低音の成分が強いので声が低く聴こえるだけで、実際の音域は結構広めなので「歌えそうで歌えない」という、カラオケで悶々としがちなのがあいみょんの曲です。
ミックスボイスが最も分かりやすいのは洋楽R&Bのアーティスト・楽曲!
結論から申し上げると、ここまでにご紹介した動画のアーティストは皆ミックスボイスで歌っています!
でも、どのアーティストも淀みなく低音〜高音まで行き交いながら歌っていますよね。この淀みなさ、スムーズさこそが「ミックスボイス」の正体なのです!とはいえ、そう言われてもしっくり来ない方は多いのではないでしょうか?
そこで、あらゆる年代・音楽ジャンルの中で最もミックスボイスが用いられているであろう洋楽R&Bの中でも屈指の歌唱力を誇るBrian McKnight(ブライアン・マックナイト)を例として挙げます。
Brian McKnight Back at One
Brian McKnight(ブライアン・マックナイト)の全盛期であった90年代のR&Bシンガーは、低音から高音まで幅広い音域を高速で移動するようなメロディラインや歌唱法が一つのトレンドでした。
90年代屈指のR&Bの名曲と称される”Back at One”(バック・アット・ワン)。3:02頃〜最後のサビに入る前、「これぞR&B!」というフェイクを歌う際に「究極のミックスボイス」を耳にすることができます。
技術的にはヘッドボイス〜ミドルボイスを、高音域から中音域へ向かってガタつくことなく高速で降りてくるようなフェイクをしています。多くの方はどこまでがヘッドボイスでどこからがミドルボイスなのか分からないかもしれませんが、これこそがミックスボイスのお手本とも呼べる歌声です。
ミックスボイス=低音と中音、中音と高音をそれぞれスムーズに行き交う歌唱法
ミドルボイスが出せるようになったからといってミックスボイスを使いこなせるとは限りません。
たとえば、チェストボイス(日本語で言うところの「地声」や「胸声」)で歌っていて、中高音域へ移動する時に余分に力が入りすぎたり、逆に力が抜けすぎて裏声へひっくり返ったりしてしまうのであれば、それはミックスボイスとは言えません。
換声点やブレイクと呼ばれる、いわば声をチェストボイスからミドルボイスへギアチェンジする箇所をスムーズに行き交えなければ、単体でミドルボイスを出せてもミックスボイスとは呼べないわけです。
それはミドルボイスからヘッドボイス(頭声)やファルセット(裏声)間の移動でも同様です。
ミドルボイスからヘッドボイスやファルセットへギアチェンジする箇所も、やはり声量や声質がガタついたり大きく変化してしまってはミックスボイスとは言えません。
ちなみに、日本ではポピュラーミュージックにおいて「ヘッドボイス」の認知度はまだ低いですが、先ほど紹介したような洋楽では高音域を歌唱する際、息っぽく弱い音色のファルセットでなく、力強く柔らかい音色のヘッドボイスへスムーズに移行する傾向があります。
ファルセットは先のリアーナの楽曲のように、意図的に優しく・柔らかく歌いたい時にアクセント的に用いることが多いです。
まとめ
ミックスボイスとミドルボイスは似ているようで違うものです。
日本では「ミックスボイス」という言葉が一人歩きして、ミドルボイスに関する情報がきちんと見えづらくなっています。
ミドルボイスが力みなくきれいに発声できる→チェストボイス(胸声)やファルセット(裏声)、ヘッドボイス(頭声)との間をスムーズに行き交える
ミックスボイスは、ミドルボイスの技術なしには使いこなせません。
まずはミドルボイスの発声を修得し、それから声区間のブレイク・換声点を行き交えるように練習していくのがおすすめです。